ピロリ菌治療の問題点
1.耐性
2.アドヒアランス(患者さんが服薬を続けられるかどうか)
3.喫煙
4.飲酒
5.副作用(こちらをご覧ください)
ピロリ菌除菌療法では、耐性が問題になっていました。
耐性とは、薬に対して細菌が抵抗するようになり、その薬が効きにくくなることです。
多くのピロリ菌感染者においては、風邪などで抗生剤を服用し続けた結果、ピロリ菌が抗生剤に対する耐性を獲得しています。特にクラリスロマイシンに対する耐性が最大の原因です。
クラリスロマイシンは上気道感染をはじめ、小児科疾患、呼吸器科疾患、耳鼻科疾患で使用される頻度が高い薬剤です。そのために、胃の中のピロリ菌も耐性を獲得すると考えられ、もともと80%以上だった除菌成功率が70%前後に下がってしまいました。
「クラリスロマイシン耐性率」は、2000年で7.0%であったのに対して、2010年で31.0%と急激に上昇したことも報告されました。日本ヘリコバクター学会の全国調査でも、2002年からの5年間でクラリスロマイシン耐性率は約30%存在すると考えられています。
また、クラリスロマイシンを含んだ除菌療法が不成功の場合、二次的にクラリスロマイシン耐性を獲得しやすいことも報告されています。
こうした耐性を解決する方法として、2015年春から、カリウムイオン競合型胃酸抑制薬であるボノプラザン(タケキャブ®)が用いられています。
ボノプラザンは胃酸分泌を強く抑えるため、除菌成功率を従来の70%から90%以上に改善することが報告され、耐性菌の問題が小さなものになることが期待されています。
従来のプロトンポンプ阻害剤(PPI)を用いた二次除菌療法の除菌率は90%以上です。二次除菌まで進めば、95%以上の方が除菌に成功します。逆に言えば、約5%の方が除菌されないことになります。
これに対してある研究報告によると、ボノプラザンを用いて現在の一次除菌、二次除菌を行った場合に除菌されない方は感染者の0.1~0.2%と考えられるとのことです。
アドヒアランス(服薬を続けられるかどうか)服薬アドヒアランス(服薬を正しく続けられるかどうか)も除菌成功率に関わる重要な因子のひとつです。
薬の中断や飲み忘れによる不十分な除菌療法は、除菌失敗につながることはもちろん、薬剤耐性が生じることにつながります。
確実にピロリ菌を除菌するために、処方されたお薬は必ず処方通りに服用してください。
除菌療法では、1種類の「胃酸の分泌を抑える薬」と2種類の「抗菌薬」の3剤を同時に1日2回、7日間服用していただくことになります。
自分の判断で服用を中止すると、除菌に失敗して、治療薬に耐性をもったピロリ菌があらわれることがあります。
喫煙喫煙は胃粘膜血流を低下させることが知られています。
その結果として、抗菌薬(クラリスロマイシン)の胃粘膜濃度が低下して除菌率低下をきたす可能性があります。
一次除菌中は禁煙が原則です。
飲酒二次除菌療法の期間は、アルコールの摂取を避けていただきます。
薬物相互作用として、二次除菌で使われるメトロニダゾールは飲酒によってジスルフィラム・アルコール反応が起こすため、腹痛・嘔吐・ほてりなどが現れることがあります。
二次除菌療法中は飲酒を避ける必要があります。つまり禁酒が原則です。
総合して、一次・二次除菌ともに治療中に1週間は禁酒・禁煙をすすめることが望ましいと考えています。
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ピロリ菌と胃がんの関係 その2〜除菌後胃がん〜
皆さまこんにちは、小金井つるかめクリニック院長の石橋です。
今回は、前回のブログに引き続いて、「除菌後胃がん」についてお話します。前回ご説明した「除菌による胃がんの発生抑制」とあわせてお読み頂くと理解しやすいと思います。
なお、本ブログのコンセプトは「最新の医療ネタを分かりやすく解説する」ためのものですが、専門用語が数多く含まれます。医療関係者の方でなくとも理解できるように努めてはいますが、用語が多少難解であったり、そもそも扱うテーマが非常にマニアックです。この点をご容赦いただけますと幸いです。
胃がんの原因としてのピロリ菌
前回も強調しましたが、胃がんの原因として、明確なものは「ピロリ菌感染」です。裏を返すと、これまでのところ、ピロリ菌以外に胃がんの原因となるものは示されていません。
塩分や亜硝酸(干物や梅干しなど日本食に多く含まれる物質)が原因である、とされたこともありましたが、多くの研究の結果、これらが胃がんを直接引き起こすとは結論付いていません。
ピロリ菌感染が胃がんの原因であることは前回のブログで強調しましたが、近年胃がん検診としてピロリ菌に感染したことがない方や、ピロリ菌に感染したことがあっても除菌が成功した方を対象に内視鏡検査を行う機会が増えた結果、ピロリ菌に全く関係なく発生する「ピロリ菌陰性胃がん」や、ピロリ菌の除菌が成功したことがある方に発生する「除菌後胃がん」の存在が明らかになってきました。
今回は、この「除菌後胃がん」についてご説明します。「ピロリ菌陰性胃がん」については次回のブログであらためてご説明します。
除菌後胃がんの定義
ピロリ菌の除菌後に見つかる胃がんを広義で除菌後胃がんと呼びますが、よくよく考えると以下の3パターンが考えられます。
⑴ ピロリ菌の除菌前にすでに胃がんとして存在していたが見逃されていて、除菌後に初めて指摘された胃がん
- ⑵ ピロリ菌の除菌前には指摘が難しいほど小さな病変として存在していて、除菌後に次第に大きくなり初めて指摘された胃がん
- ⑶ ピロリ菌の除菌前には存在せず、除菌後に発生した胃がん
細かすぎてどうでも良いと思う方もおられるかもしれませんが、臨床的には以下の意味で重要です。
まず、(1)のケースは、いわゆる見逃し症例に該当するためあってはならないということです。
2020年5月21日のブログでも書きましたが、適切な検査時間を守る(3〜4分の範疇でできるだけ長く胃を観察する)ことが、早期胃がんの発見においては重要です。
他にも、
- ・ 適切に鎮静(安定剤の使用)を行うことでげっぷや反射をなくす
- ・ きちんと管理された解像度の高い内視鏡器具を用いる
- ・ 検査医師が内視鏡診断やスクリーニングのためのトレーニングを受けている(≒内視鏡専門医)
- ・ 検査結果を管理するための二重読影体制を敷いている
など、内視鏡検査の「質」を高めるための工夫も重要ですが、最もインパクトが大きいものは、「適切な検査時間」です。
なお、「二重読影体制」の意味と意義については、現在研究成果の学会発表及び論文化準備中であり、ある程度まとまったところで本ブログにおいてご説明致します。
次に(2)のケースについてですが、 実際には(3)のケースと判別が難しく、臨床的には同じ対応が必要になると考えます。
除菌後胃がんは非常に見つけづらい
ピロリ菌感染そのものが胃粘膜に炎症を引き起こし、炎症が胃がんの発育進展を促進する、という知見があり、除菌が成功した後に炎症が鎮静化した胃粘膜においては、胃がんの発育が緩徐になる可能性があります。
発育が緩徐なため、除菌後胃がんは、ピロリ菌陽性胃がんに比べて小さいというのが最も大きな特徴です。
また、除菌により周囲の胃粘膜の炎症がとれると、胃がんと周囲粘膜の境界が不明瞭になるケースも多く、診断自体が困難になることが多々あります。
当院での症例を供覧します。
左が除菌後胃がん、右がピロリ菌陽性胃がんです。インジゴカルミンという青い色素をまいて、病変が浮き出るようにしています。
ピロリ菌陽性胃がんは強い発赤と表面の凹凸が強く認識しやすいのに対し、除菌後胃がんは発赤が弱く周囲の胃粘膜からわずかに陥凹した領域としてのみ認識可能です。
また、そもそも大きさが全く異なり、このような除菌後胃がんの発見のためには除菌後胃がんを発見するつもりで一生懸命観察しなければなりません。
以前当院で行った研究で、2018年度に内視鏡検査を行った方(平均年齢47.2歳)のうち、ピロリ菌陽性者は3.2%、ピロリ菌未感染者は76.6%に対して、ピロリ菌除菌後の方は20.4%でした(参考文献1)。また、除菌療法が広く普及するにつれ、除菌後の方の比率は年々増加しており、それに伴い除菌後胃がんの発見数も増加しています。
5人に1人はピロリ菌除菌後であり、日頃から丁寧に検査を行うことがいかに重要であるかがよく分かります。
参考文献1: Ishibashi et al. Quality Indicators for the Detection of Helicobacter Pylori-Negative Early Gastric Cancer: A Retrospective Observational Study. Clinical Endoscopy. 2020. Online ahead of print. (//www.e-ce.org/journal/view.php?doi=10.5946/ce.2019.20)
2020年5月21日のブログでも書きましたが、当院では、特に除菌後の胃粘膜を観察する際にできるだけ長く時間をかけることが、除菌後胃がんの発見のために重要であることを示してきました。
ピロリ菌陰性胃がん
除菌後胃がんのうち、ピロリ菌を除菌後に新たに発生した胃がん(狭義で言うと上記⑶)は、長らくピロリ菌が感染していたせいで生じる粘膜萎縮という条件下に発生することがほとんどです。
粘膜萎縮を起こした状態のことを萎縮性胃炎と呼びますが、ピロリ菌を除菌した後でもこの変化は残ってしまいます。このため、除菌後に定期的にフォローアップのために内視鏡検査を受けていただくたびに、内視鏡レポートに「萎縮性胃炎」と診断が載ってしまう訳です。
この点で、除菌後胃がんは除菌が成功した後にも「過去のピロリ菌感染」の影響を受けた発がん様式をとるため、広い意味ではピロリ菌関連胃がんとも言えます。
一方で、ピロリ菌感染が全く関連ない胃がんというものも存在します。次回は、この「ピロリ菌陰性胃がん」についてご説明致します。
内視鏡センターのページはこちらです。
まとめ
- * ピロリ菌の除菌療法が普及するにつれ、除菌後胃がんの発見数は年々増加している。
- * 除菌後胃がんはピロリ菌陽性胃がんに比べ、小さく境界不明瞭なため発見しづらく、発見のためには内視鏡検査の際に観察時間を長くとる必要がある。
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